猫にジャズ

ちらしの裏

#5 技術系同人誌ができるまで

はじめに

 この記事はBBSakuraNetworksアドベントカレンダーの3日目です。

adventar.org

 

 2017年12月末に初めての一眼レフ(Canon EOS80D)を購入して以来、すっかり写真撮影が趣味になってしまいました。撮り歩くのはもっぱら携帯電話基地局や衛星通信所、変電所などのインフラです。仕事はIPネットワークを主軸にサービスネットワークのバックボーンの設計から構築・運用、最近はサービス自体の開発(コーディング)をしています。仕事で4G/LTEのモバイルネットワークを作ることになったのがきっかけで、携帯電話基地局をはじめとする様々な通信設備に興味を示すようになりました。同じく写真を趣味とする同僚を誘ったところ見事に仲間入り。多いときは6~7人でカメラを構えてインフラ活動(インフラを見つけては写真を撮る活動)を行っています。

 そんなこんなで今日に至るまで日本国内に留まらず海外にまで足を伸ばして様々な写真を撮り歩いてきた結果、3冊の技術系同人誌が生まれました。

chofutech.booth.pm

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本になるまでのプロセス

 被写体(何を撮るか)を先に決めると固くなるので、とにかく行った先々で撮りためておき、ある程度溜まったら選別して写真集にする方式です。もはやインフラ活動という体の旅行になっているのはヒミツです。

  1. 候補地の選定
  2. 行く
  3. 撮る
  4. 選別・編集・入稿
  5. 販売

以降はこのプロセスを詳しくお話します。

1. 候補地の選定

  候補地はだいたいTwitterで得た面白情報か、海上保安庁が出している海洋状況表示システム海しる、パラボラアンテナマップや電話局の写真館を見て決めます。中でも海しるが大変有用で、船が間違って錨や底引き網で海底ケーブルを切らないように海底ケーブルがどこに敷設されているか記載されています。海底ケーブルの陸揚げを見に行く際はこれをもとに決めています。

  • 田舎に行く
    田舎特有の通信インフラとしてNTT電話交換局を地方用に小型化したRT-BoxやRSBM、光ファイバインフラの無い所には上流回線が衛星ブロードバンドな携帯電話基地局(SoftBankのIPStar基地局)などが見られます。また、JAXAや民間の事業者が打ち上げた衛星を管制する地球局は比較的都会から離れた所にあることが多く、代表例では長野県にある臼田宇宙空間観測所などが挙げられます。一般の方でも見学Welcomeな施設なので、日本一大きなパラボラアンテナを見たい場合は是非行ってみてください。あの "はやぶさ" の管制でも大活躍しました。

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    臼田宇宙空間観測所
  • 離島に行く
    田舎に行くとあまり変わりませんが、離島は本州に比べ変わり種インフラが多く見られます。島民の通信を支える巨大なマイクロ波鉄塔(無線中継所等)や海底ケーブル(送電・光通信)の陸揚げ地点を見ることができます。沖縄をはじめとする離島にも、JAXAの施設があり自由に見学することができます。

    JAXA | 沖縄宇宙通信所

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    石垣島にある海底ケーブルを示す看板
  • 海外に行く
    一部の国では我々のインフラ活動はスパイ活動と同義であり、場合により命に関わる可能性があることは一同承知しています。海外ではむやみに施設には近寄らず、遠目に見える風景くらいを写真におさめるなど、節度を持って活動しています。海外に行く場合は殆どが観光であり、インフラが撮れればラッキーくらいです。今まで台湾・スペイン・マレーシアに訪れました。

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    台湾・九份の観光地に溶け込む基地局

2. 行く

 宿泊を伴わない場合はだいたい関東圏の朝出て夜帰る日帰りです。と言っても片道250kmコースですが...レンタカーで出かけます。最近は飛行機という手段を使い始めてしまい終わりの始まりを感じていますが、趣味なので全力で。ANAを使っていますが、時期を見て航空券を上手に手配すると羽田-那覇も往復2万以下、今年5月の石垣も1.9万円でGETできました。上級会員でなくても全く問題ありません。

 流石に6:10羽田発の飛行機は辛かった(朝起きるのが)

北は北海道、南は石垣まで。

 

 行く前にGoogleMapのマイマップで見たい現地インフラを全部リストアップします。ダム、衛星管制局、陸揚げ地点、飯情報、宿泊施設、変電所など現地で足を運ぶ所すべてにピンを打ちます。5月に行った石垣で使ったMAPですが、1泊2日とは思えない過密度合いです。朝から晩まで走り回って、この狭い島内をたった1日で250kmも走りました。正直異常です。

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石垣でのインフラ活動の記録

3. 撮る

 あとは撮りまくります。常にピンを打った場所をいかに効率よく回るかを考えています。押している場合は何を見るのを諦めるかを考えます。書いていてなかなかストイックだなと他人事のようです。

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撮っているところを撮られた


石垣にある日本のGPS衛星 "みちびき" の管制局を撮っているところです。不審者ではありません。

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私の機材

私の機材です。超広角から超望遠まで焦点距離14mm-600mmをカバーできます。最近ニコンのミラーレス(Z7)を中古で買ってしまいました。メインはCanonのレフ機でレンズもEFマウントばかりです。Z7についてるレンズはTZEマウントアダプタを噛ませてSONY用のレンズがついているお手軽用。

 

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車は商用車

 現地で移動に使う車(レンタカー)ですが、基本商用(貨物)車です。我々のインフラ活動に最適な車(走り、圧倒的な荷物積載量)を考えるとプロボックスハイエースN-VANと言った商用車しかありません。アクアやフィットなどの乗用車は2人までの場合です。

 あと、我々の活動に欠かせないアイテムは無線機です。インフラ活動をしていると携帯電話の電波が届かない場所が平気で出てくるため、コミュニケーションの手段をインターネットに頼っていては生きていけません。親局不要で通信できる手段が必要です。

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デジタル簡易無線(左)とアマチュア無線機(右)

 無線機は無線従事者免許の不要なデジタル簡易無線機を使用しています。開局申請と電波利用料の納入だけで5Wハイパワーで通信できるため非常に有用です。特に車2台以上の隊列になって移動する時や、コミケ会場・技術書典などの会場で別々に行動する時の連絡に利用します。勢い余って2台開局してしまいました。

4. 選別・編集・入稿

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Google Photoのアルバム

 撮ったものはLightroomで自動現像をかけてとりあえず全部Google Photoにぶち込みます。しばらく貯まると見返して、そろそろコミケか技術書典かという時期になったら次は●●編(●●は電力だったり通信だったり)にしようかと唐突に編集会議が始まります。ページはだいたい30~40ページくらい、といった雑な感じです。

しかし今まで負け無しだったコミケと技術書典の抽選ですが、C96に向けて通信編2を準備していたのに落ちてしまいました。まぁそんなこともある。

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DropBox

印刷屋への入稿形式はだいたいIllustratorなので、Illustratorで編集します。メンバー複数人で作業分担(写真選定・現像/レイアウト調整・説明文記入)を行うため、Dropboxでファイルを共有しつつ編集を進めます。

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Illustratorの編集画面

毎度こんな調子でやってます。一度に発行する部数は見込みにより100部or200部。オフセット印刷にすると1冊700-800円くらいになります。印刷はみんな大好きプリントパックです。

5. 販売

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技術書典6

ブースの配置にもよりますが、だいたい1回のイベントで平均50部、多いと70部程売れます。インフラ活動費とカメラに金が掛かりすぎなため何冊売っても収支は常時マイナスですが、嬉しいことに買ってくれる方が居るので我々もその喜びが次の活動に繋がります。

振り返り

 インフラ活動によって得られたものは写真だけではありません。インフラを撮っている内に覚えた設備などの知識は会話の引き出しを増やし、関係者(携帯電話事業者や電力会社)に会った際に話をするとかなり喜んでもらえます。何冊か寄贈させてもらいました。小樽でフルリモート勤務している会社の人に渡した所、2-3歳の娘さんが「きちきょく」を認識できるようになったみたいです!何という英才教育、日本の未来は明るい。

また、本ブログで紹介したGPS同期のStratum 1 NTPサーバを作るも、インフラ活動の流れ弾でできたものです。家の電気工事をしたいからと第二種電気工事士も取れましたし、情熱をいい方向に使えたと思います。

最後に

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尾道にて

こんなふうに平和に暮らしたい